日本腹部放射線研究会ゴールドメダル受賞にあたって
−日本腹部放射線研究会の歴史と展望
一般社団法人日本腹部放射線研究会
名誉会員 打田 日出夫
日本に於ける放射線医学の発展に伴い、各領域と臓器についての専門的な知識と情報交換の必要性から、腹部領域に於いても「腹部放射線研究会」が最も多くの放射線科医が集まる専門部会として発展しており、22年間の歴史を刻みこの度26回研究会の開催を迎えたことは誠に喜ばしいことであります。
ご協力頂いた歴代の幹事、世話人の先生,病理医の先生並びに会員の方々に心から感謝いたします。
この度、受賞の栄を得て身に余る光栄に存じます。つきましてはこの機会に腹部放射線研究会の歴史を少し振り返らせて頂きます。
腹部放射線研究会は第1回が1990年10月第26回日本医学放射線学会秋季臨床大会にジョイントして秋田に於いて開催された。発足当時は、日本医学放射線学会評議員会に於いて「泌尿生殖器系研究会」設立の提案があったが、一足先に発足した「肝・胆・膵系研究会」と合体して「腹部放射線研究会」として発足することに合意が得られた。近年、専門分化が進む医療体制の中で、CTとMRIを中心とした画像診断が、腹部全領域を包含した疾病・病態の情報を同時に提供している日常診療の現況に於いて、本研究会は、pitfallを回避して質の高い医療、特に画像診断情報を提供する義務がある放射線科医の立場から、その重要性と評価は益々高まると考えられ、腹部全領域を包含した本研究会の設立は正しい判断であったと実感している。
その後、年2回(1回は肝・胆・膵中心、1回は泌尿・生殖器中心)開催されてきたが、1995年からは腹部全領域を包括した年1回の開催となった。本研究会は「対象は病理が判明しているケースに限り、病理医に参加して頂き、病態や病理診断が明らかにされた興味深い・教訓的な症例を発表することが前提」となっており、各臓器と疾患に於けるパイオニアの病理医が全国からコメテータとして参加して適切な解説とコメントを述べて頂き、更に適宜に病理と画像に関する特別講演が企画されてきた。優れた腹部画像診断を志す放射線科医にとっては非常に恵まれた充実した研究会となっている。
2000年(第14回)までの10年間、私が代表幹事をさせて頂き、その後、幹事代表は板井悠二先生(筑波大)に2001年と2002年(15回、16回)を務めて頂いた後に、2003年から代表幹事が松井 修先生(金沢大学)に受け継がれ、副代表幹事に森 宣先生が就任された。
研究会事務局は奈良県立医科大学放射線医学講座が2006年(第20回:東京開催)までの16年間を担当した。2007年(第21回:宮崎開催)より大分大学 放射線医学講座に事務局が受け継がれ、後援を日本シェーリング(現バイエル薬品)株式会社にご尽力頂いた。
演題数と参加者が増加して益々充実した研究会として発展してきた。新体制での優れた執務に感謝している。この度、2011年2月に「一般社団法人日本腹部放射線研究会」と刷新され、2012年6月に開催される本研究会総会にて、代表理事が松井 修先生から森 宣先生に引き継がれる予定であり、更なる充実と発展を期待している。
本研究会の幹事として活躍された3人の先生(故人)の「腹部画像診断アトラス発刊巻頭での印象に残る示唆に富む記事」の一部を、会員の心に末永く刻んで頂きたく、以下に紹介します。
永井 純先生「学会がマンモス化したために、症例報告などの発表の機会がなくなってきた現実に鑑み、地方会レベルでしか見聞きできない貴重な症例を全国レベルの研究会で発表する場があれば、全国の放射線科医の画像診断の能力の向上に役立つのではなかろうかという趣旨のもとに計画された。また、同時に画像の裏付けとなる病理診断について病理学者の教育講演をプログラムに組み込むこととした。」現在活動している研究会の中「本研究会は発足当時の思惑どおり発展を重ね、でも会員数の多い人気のある研究会となってきた。この研究会発足の趣旨は明日の診療に直接役立つ貴重な臨床例を勉強する研究会であることが第一目的であり、地道な精進が臨床に強い画像診断医の育成に役立つものと信じている。」
板井悠二先生「症例は最大の教師であり、第1回から印象深いケースに色々と接してきた。・・・・不勉強にして病名すら聞いたことがないような疾患もたびたび出てくる。・・・・は部屋が狭いので多くはゴミとして消えていく運命にあるが、しかし、例外として本アトラスは時々眺めて楽しんでおり、この手の出版物としては異例の高い評価を受けており、小生自身も手の届き易い場所に置き、何かの折にあんなケースがあった筈だと参照している。自分の病院の病理医とコメンテータの病理医の意見と違う症例も時々出たが、その趣旨を正しく持ち帰り、病院の病理医にさらに検討を加えて貰い、ブラッシュアップした投稿を期待したい。」
石川 徹先生「毎回欠かさず出席し、知識のup-dateに非常に役立っております。2日間座っているだけでその分野のあらゆる症例を網羅し学ぶことができるからです。地道な努力をすることが第一であり、若手への指針として長きに亘りカンファレンスにおいて続けてきている“case presentationの原則”の10項目の内、主な5項目は、1.検査法が変わる前に必ずその時点での鑑別診断と自分の判断を述べる、2.検査法が変わった場合、何故やったかを必ず言う習慣をつける、3.全画像情報を供覧した後で総括し最終的に自分の意見を述べる、4.人が納得できる最終診断の証拠を提示する、5.症例のポイントと問題点を述べそれに対する文献考察を簡単に行う、」である。
なお最後に、松井先生と森先生が2004年「腹部放射線診断アトラス」[IX]に書かれた巻頭言での一文、「幸い本会には若い優秀な人材が数多い。世界に羽ばたく腹部放射線科医を数多く我が国から輩出できるように本会をより充実させていきたいと考えている。」並びに「志を継ぐーさらなる腹部放射線研究会の発展を:国内の充実、志(板井先生)を継ぐ、国際関係—ESGAR-SGR-そして韓国・アジアとの提携・交流の情熱と形成、を課題として考えている。」を紹介します。
腹部全域に於ける質の高い画像診断に寄与する放射線科医の医療に於ける役割は大きく、本研究会で積み重ね習得された貴重な症例と先輩の教訓を糧として、特に将来を担う若い放射線科医の活躍を期待します。
平成24年5月10日
打田先生ゴールドメダル受賞について
一般社団法人日本腹部放射線研究会 代表理事 松井 修
日本腹部放射線研究会は1990年に第一回の研究会を秋田で開催してから今回まで四半世紀を経て大きく発展してきました。症例報告を中心に画像と病理の詳細な対比を行う本研究会のスタイルは多くの会員の支持を受け、若い画像診断医を教育し、我が国の腹部画像診断の発展を牽引してきたといっても過言ではありません。ここ数年間は将来を見据えた組織の改革にも取り組み、さらなる発展を目指しています。この時期に本研究会の発展に貢献されたかたに組織として謝意を表するために、ゴールドメダルを贈るべきという声が幹事会で高まり、その最初の受賞者として打田日出夫先生が満場一致で推挙されました。打田先生は本研究会の創設に故板井悠二教授とともにご尽力され、第一回の会長を務められました。また常にオピニオンリーダーとして本研究会を今日まで牽引されてきました。ここに、日本腹部放射線研究会に対する打田先生の創設以来の長年の御貢献に対し、研究会を代表してお礼を申し上げるとともにゴールドメダルをお贈りいたします。
平成24年4月30日
第26回日本腹部放射線研究会 ゴールドメダル授与式
2012年6月23日ホテルエルセラーン大阪にて
名誉会員である打田先生に松井代表理事よりゴールドメダルが授与された。
授与されたゴールドメダル
表は打田先生の顔型、裏は日本腹部放射線研究会のロゴであり、石膏彫刻の過程を経て作製された。
松井代表理事、森副代表理事より打田名誉会員にゴールドメダルと賞状が
授与され、森副代表理事夫人より花束を贈呈された。同様に事務局の小川秘書 、大分大学医局員の清永先生が介添えした。
ゴールドメダル授与後、打田先生に「腹部放射線研究会の
歴史と展望」についてご講演頂いた。
(打田先生のご厚意により講演内容を掲載させて頂きました。下記の「講演内容閲覧」ボタンをクリックすることにより閲覧することができます。)
講演後、本研究会の理事、監事の先生方および第25回研究会の打田賞受賞者、
アジア腹部放射線学会の代表理事であるChoi先生(前列右2番目)、本研究会前秘書の奈良県立医科大学放射線医学教室、吉澤 玲子秘書(前列右1番目)が参列され、記念撮影が行われた。
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